蒼夏の螺旋

 “電子レンジ COMPLEX”

 


独身男の一人住まいにしては広すぎの2LDK。
しかも無趣味で物欲が薄いと来て、
家具も家電も必要最小限しかおいてはなくて。
寝に帰るだけも同然の、
良くも悪くも
“すぐにも引っ越しが出来るモデル”
……だったはずのフラットが。

  気がつけば、随分と様変わりしたもの

リビングのソファーやテレビ、
寝室のベッドはそのサイズが変わったし、
以前は意味が分からなかった、
幼児がそのままベッドに出来そうな大型クッションも、
リビングと寝室にもでんと居座っておいで。
ソファーには肌触りで選んだラグが敷かれてあって、
冬場には毛足の長いふかふかしたムートンに替えられる。
サイドボードには こまごました日用品が散らばっており、
そうしている張本人に言わせれば、
これでも使い勝手がいいように出してあるそうだが、
そうと言う割に、
やれ爪切りがない、耳かきはどこやったっけと、
出先のご亭主へメールで訊くのだから世話はなく。
何ならよく使う雑貨にはGPSタグを付けとけばいいと、
あくまでも冗談で言ったら
テレビとエアコンのリモコンへ本当に装着してたのには、
さしもの朴念仁も、大ウケして大爆笑したとか。

  毎朝いってらっしゃいのハグをして、
  晩に帰ればおかえりなさいと飛びついてくる愛しい人がいて

どっちもイロイロ疎かったはずが、
痛くないよに抱きしめる加減も、
苦しくないけど形だけでもないキスも、
不器用ながらも少しずつ、
気持ちいいのはどこだろかと
手探りし合って覚え合ったし。
そういう甘いのと同じほど
思いがけない客人や騒動も、互い違いにやって来て。

  毎日がびっくりと嬉しいの抱き合わせ

自分がこんな風に日々を過ごすようになろうとは、
予想だにしなかったゾロであり。
こんな毎日を運んで来てくれた張本人様はといえば、

 「……ん。////////」

少しばかり小さめな身なのをいいことに、
伴侶殿の広々した懐ろへもぐり込むと、
頼もしい胸板へ凭れかかってその居心地のよさを堪能中。
時々 悪戯をしかけて来る手があって、
くすぐるのはナシって言っただろー、とか、
非難のためにお顔を上げれば。
背中から回された長い腕にて抱き込まれ、
小さい顎を掬い取られて、
そのまま“ちう”に持ち込まれるもんだから。

 「…ゾロのすけべ。」
 「何だ、知らんかったのか。」

しらっと応じたご亭主だけれど、
何も最初っから力づくをしいてる訳じゃあなくて。

 『不意打ちは辞めろっての。//////』
 『ししし…。///////』

野球中継に気を取られている相方なのが詰まらぬと、
胸元を少しずつ剥いたり、そこへと ちうを落としたり、
先に傍若無人を始めたのはルフィの方なのだから、
これはもう どっちもどっちというやつで。
ご贔屓チームが勝ったからか、
機嫌のいいまま、
懐ろネコさんの好きなバラエティ番組なぞ観ていたものの。
そうともなれば、今度はゾロの方が
関心のないテレビよりも、間近においでの恋人さんへ
ちょっかいをかけてしまうのは自明の理。
掴みどころのない ぷるんとした柔らかさではないが、
それでも同世代の男性の持ち物とは到底思えぬ、
堅いところの少ない肢体へ、
甘い熱と愛らしい笑顔を抱えもって来ての、
さあ構えと乗っかって来ておいて、

 “手ぇ出すなもなかろうよ。”

まだ少々残暑も居残るとはいえ、
陽もとっくに落ちた今は、
窓を開けていると袖のない格好ではややキツイかも。
それもあってか、
大きめのTシャツにイージーパンツという軽装のルフィとしては、
シャツ越しのゾロの体温目当てにごろごろ擦り寄ってもいたらしく。
よって、離れる気は毛頭ないらしいものの、

 「あ、こら、や〜だって。////////」

テレビに背中を向ける格好、
向かい合ってのギュウとかされてしまうのは本意ではないと、
やぁだとか、まだ早い〜とか、微妙な抵抗を続けていたのだが、

  そこへと鳴り響いたのが、
  ちーん、という軽やかな例のアレ

絶対に後づけだろうに、
どうしてか これが聞こえると手が止まる人間心理は
誰か解明しているものか。

 「何だ?」
 「うん、チヂミだvv」

冷食を解凍してたと、
手が止まった隙をつきキッチンへ運ぶルフィであり。
皿を手に戻って来たので、腹をみたすべくの一時休戦となってさて。
テレビに飽きたか、またぞろ怪しい手が伸びて来るものの、

  そこへとまたまた鳴り響いたのが、
  ちーん、という軽やかな例のアレで

何だ何だ、今度は何だと、
まるでガードが掛かってたかのよに、
小さな奥方の胴回り、
あと数センチを残してピタッと止まった大きな手を
ちょちょいと押しのけて、

 「タコ焼きだよんvv」

これがまた旨いのvvと、
満面の笑み浮かべ、キッチンへ向かったルフィであり。
まあ食いしん坊なのは今更な話だしと、
羽毛の詰まったクッションを抱え込んで待っておれば、
わぁいと嬉しそうに、新しい皿を手に戻って来た彼で。

 「ほら、ゾロも食えvv」

最近の冷凍食品は凄いぞ、出来立てと変わんないの。
でも、ゾロへの三度三度の食事は
頑張って俺がちゃんと素材から作ってるからな。

 「出来合いので あんな
  時々焦げてんのなんてないもん、判るよな。」
 「おいおい。」

余計なことまで自分で言って、旦那様を苦笑させるお茶目さんで。
目許をやんわりとたわませ、にゃは〜と微笑った無邪気さに、
ああ可愛いなぁと、ついつい。
目の前の細っこい首条へ軽くキスを落とすくらいは良いだろと、
薄い肩のうえへ顔を伏せ、
チッと小さなリップ音を立ててのキスを贈れば、

 「ん、やぁだ。///////」

くすぐったかったか、とはいえ、楽しそうに微笑ってのヤダが出て。
そも、離れて戻って来るそのたび、
ちゃんとゾロのお膝へまたがるルフィさんなので、
本気で“今日はヤダ”と避けているということでもないのだろ。
相変わらずアルコールがダメな彼なので、
さっきからソーダやコーラしか飲んではおらず、
酔って眠いというのでもなさそうだし。
こういう宵は、持って来ようによって
どうにでも転がると踏んだはよかったが、

  そこへとまたまた鳴り響いたのが、
  ちーん、という軽やかな例のアレと来て

 「……る〜ふ〜い〜。」
 「なぁに?」

今度のはポップコーンだぞ、レンジで出来るんだ凄げぇよなと、
白々しい言いようをする奥方がにひゃりと笑い。
さてはこうやってゾロをからかう気満々で
レンジへ次から次にブツを仕込んでいたようで。

 「お前ね、」
 「何だよ。」

今頃 気がついたかと、
またがってた旦那のお膝の上で、
あんよをクルンと回しての回れ右。
自分から向かい合ったルフィ奥さんの言い分は、

 「野球の中継中、ずっと片手間で相手した罰だよん♪」

とのことで。

 「大体ゾロだって、本気で俺と遊びたいんなら、
  あんなチーンくらいで手ぇ止めんなよな。」

 「う"…。」

上目遣いになっての、どーだ参ったかには、
さしもの剣豪もあえなく撃沈。
似たような上目遣いながら、
そっちはいかにも反省してますとのご機嫌伺い。
奥方の童顔を伺い見るご亭主なのへ、
ふふふと面白そうに笑ったルフィさん、

 「ったく、しょーがねぇなぁゾロはvv」

うるせぇな、生意気なとか、
声を荒げるでない優しいところが大好きだよんと。
大きく広げた両腕で、ぱふ〜んっと首っ玉へ抱きついて、
テレビはもう終しまいと、耳元で囁いて差し上げる
なかなかに大人な奥方なのでもありました。



  今宵はここまでにしとうございます……♪





  〜どさくさ・どっとはらい〜  13.10.01.


  *お久し振りの新婚ゾロルです。
   思うところあってお休みとしておりましたが、
   別のお部屋で甘甘な神と仏に走ってるうちに(笑)
   こっちの彼らでの甘い話を書きたくなっての封印解除です。
   ぱぴぃのお二人では、やっぱ微妙に限界があったもんで…。
   こっちの彼らも、また可愛がってもらえると嬉しいです。

***めるふぉvv ご感想はこちらvv

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